厚生労働省が公表している「持分なし医療法人への移行促進策のご案内」について、ポイントを整理してご紹介します。出資者の高齢化に伴う相続リスクや、法人資産の増加による持分払い戻し請求への不安を抱える「持分あり医療法人」の理事長・経営者の皆さまに向けた制度です。
制度の目的・対象
出資者に相続が発生した際、相続人から持分の払い戻しを請求されると、医療法人の資金繰りや経営の安定性に大きな影響を及ぼしかねません。この制度は、こうしたリスクを回避するため、「持分あり医療法人」から出資者の権利を持たない「持分なし医療法人」への移行を、税制優遇や融資制度によって後押しするものです。
認定期間と移行スケジュール
- 移行計画の認定申請期間:平成29年10月1日~令和11年12月31日
- 認定取得から5年以内に「持分なし医療法人」へ移行
- 移行後6年間は運営状況の年次報告が必須
主な認定要件
- 社員総会での議決が必須
- 移行期限が認定から5年以内であること
- 社会保険診療収入が医業収入の80%を超えること
- 医業収入が医業費用の150%以内であること
税制優遇措置
- 出資者の相続税について納税猶予制度を活用可能
- 出資持分を放棄した場合、猶予されていた相続税は免除
- 移行に伴う医療法人への贈与税は非課税
資料に示されている事例では、納税猶予と持分放棄による免除を活用することで、相続税額が約9,180万円から約4,320万円まで軽減される試算が紹介されています。
融資制度(経営安定化資金)
独立行政法人福祉医療機構による経営安定化資金も用意されています。貸付限度額は2億5千万円、償還期間は10年(うち据置期間1年以内)です。
移行後6年間の主な運営要件
- 法人関係者への特別の利益供与の禁止
- 役員報酬が不当に高額とならないための基準の策定
- 遊休財産の額が事業に必要な費用の範囲内に収まっていること
移行前に確認しておきたい相続税の注意点
持分なし医療法人へ移行すると出資持分そのものが消滅するため、相続財産としての持分の評価はなくなります。ただし、その一方で、これまで使えていた土地の評価減の特例が使えなくなる場合があり、移行の判断にあたっては注意が必要です。
代表的なのが、小規模宅地等の特例のうち「特定同族会社事業用宅地等」の区分です。この区分は、被相続人とその親族などで法人の株式または出資の50%超を保有していることが前提となります。持分あり医療法人であれば、理事長個人が所有し法人へ相当の対価で貸し付けている病院・診療所の敷地について、400㎡まで評価額を80%減額できる余地があります。
これに対して持分なし医療法人には出資持分が存在せず、50%超という保有要件を満たしようがないため、この区分の対象から外れます。移行後は、相当の対価を得て継続的に貸し付けている場合に「貸付事業用宅地等」として200㎡まで50%減額を検討することになり、減額できる金額は大きく縮小します。
| 宅地の評価減 | 持分あり | 持分なし |
|---|---|---|
| 適用できる区分 | 特定同族会社事業用宅地等 | 貸付事業用宅地等(要件を満たす場合) |
| 限度面積 | 400㎡ | 200㎡ |
| 減額割合 | 80% | 50% |
つまり、持分の評価がなくなることによる減少分と、宅地の評価減が小さくなることによる増加分を並べて比較しなければ、移行が相続税全体として有利かどうかは判断できません。病院・診療所の土地建物を理事長個人が所有しているケースほど影響は大きくなります。法人と個人の財産をあわせたシミュレーションを行ったうえで、慎重にご検討ください。
持分あり医療法人の相続対策や移行手続きには、税務・会計の専門的な検討が必要です。移行のご検討にあたっては、当事務所までお気軽にご相談ください。
