中小企業のオーナー経営者にとって、自社の株価(自社株評価額)が高いことは、必ずしも喜ばしいことばかりではありません。いざ後継者に会社を引き継ごうとしたとき、株価が高いほど贈与税・相続税の負担も重くなり、事業承継そのものを難しくしてしまうことがあるからです。今回は、そうした事業承継対策のひとつとして使われる「分社型新設分割」という手法について、なぜ株価の引き下げにつながるのか、その仕組みと注意点をできるだけわかりやすくご紹介します。
そもそも「会社分割」とは?「分社型」と「分割型」の違い
会社分割とは、会社が営んでいる事業の一部(またはすべて)を切り出し、別の会社に引き継がせる組織再編の手法です。事業を渡す側の会社を「分割会社」、事業を引き継ぐ側の会社を「承継会社」と呼びます。
会社分割には、事業を渡した対価を誰が受け取るかによって、大きく2つの種類があります。
- 分割型分割:対価となる株式を、分割会社の「株主」が受け取る
- 分社型新設分割:対価となる株式を、「分割会社自身」が受け取る
事業承継の株価対策で使われるのは、主に後者の「分社型新設分割」です。分割会社(オーナーが直接株式を持つ会社)が、承継会社(新しく設立する会社)の株式を100%保有する形になるため、オーナーから見ると「間接的に事業全体を持ち続けながら、評価対象となる会社の中身だけを変える」という対策が可能になります。
なぜ株価(自社株評価額)が下がるのか
非上場会社の株式(取引相場のない株式)を相続税・贈与税の計算のために評価する際には、主に「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という2つの方式が使われます。分社型新設分割は、この両方の評価方式に働きかけることで、株価の引き下げを狙う手法です。
具体的には、会社の中にある事業のうち、利益率の高い「高収益事業」を新設する会社(承継会社)に切り出し、もともとの会社(分割会社)には利益率の低い「低収益事業」だけを残す、という形をとります。

類似業種比準価額への影響
類似業種比準価額は、同業種の上場会社と比較しながら「配当」「利益」「純資産」の3つの要素をもとに算定されます。高収益事業を切り離すことで、分割会社側の「利益」の要素が小さくなり、結果として類似業種比準価額が下がりやすくなります。
純資産価額への影響
分割会社は、承継会社の株式を資産として保有することになります。この株式を純資産価額方式で評価する際には、承継会社が持つ資産の含み益部分について、法人税相当額(約37%)を控除できるルールがあります。これにより、含み益をそのまま評価に反映させる場合に比べて、評価額を抑える効果が期待できます。
分社型新設分割による評価への影響(イメージ)
分社型新設分割が2つの評価方式にどう影響するのかを、簡単な表で整理してみましょう。
| 項目 | 分割前(A社単体) | 分割後(A社+B社) |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額の「利益」要素 | 高収益事業を含むため大きくなりやすい | 高収益事業をB社へ移転するため小さくなりやすい |
| 類似業種比準価額の「配当」「純資産」要素 | 両事業分を合算して算定 | 主にA社単体の状況で算定(大きくは変わらない場合も多い) |
| 承継会社(B社)株式の評価 | ― | 純資産価額方式により、含み益部分の法人税相当額(約37%)を控除して評価 |
| 自社株評価額への影響 | 高収益事業の利益がそのまま評価に反映される | 「利益」要素の縮小と含み益控除の両面から、評価額の引き下げが期待できる |
まとめると、高収益事業を切り離すことで「利益を反映する評価要素」が縮小し、かつ承継会社株式の評価にも含み益控除が働くため、両面から自社株評価額の引き下げが期待できる、というのがこの手法の基本的な考え方です。
実行にあたって気をつけたいポイント
分社型新設分割は有効な対策になり得る一方で、専門的な判断が必要な場面が多く、思わぬ落とし穴もあります。実行を検討する際は、少なくとも次の点に注意が必要です。
1.適格分割の要件を満たさないと税負担が重くなる
会社分割を「適格分割」として税務上有利に行うためには、「分割会社の株主に承継会社の株式以外の資産が交付されないこと」「分割した事業に従事していた従業員のおおむね80%以上が、分割後もその事業に引き続き従事すること」「分割した事業が、分割後も引き続き営まれること」といった要件を満たす必要があります。これらの要件を満たさない場合は、資産を時価で譲渡したものとして課税されてしまい、狙っていた節税効果が得られないばかりか、想定外の税負担が生じるおそれがあります。
2.分割後は類似業種比準方式を使えない期間が生じることがある
会社分割によって会社規模の区分や業種が変わる場合、分割した事業年度の翌事業年度が終わるまでは類似業種比準方式を使うことができず、純資産価額方式のみで評価しなければならないケースがあります。せっかく分割しても、評価方式が切り替わるタイミングによっては、想定していたほど評価額が下がらないこともあるため、事前のシミュレーションが欠かせません。
3.行き過ぎた節税とみなされると、通常の評価方法が否認されるリスクがある
財産評価基本通達には、評価通達どおりに計算した価額と実態とが著しくかけ離れており、その方法をそのまま適用することが著しく不適当と認められる場合には、他の合理的な方法によって評価できるとする、いわゆる「総則6項」という定めがあります。事業実態を伴わず、株価を下げること自体を主目的とした行き過ぎたスキームだと判断されると、通常の評価方法によらず、実質的な価値で課税されてしまうリスクがあります。分社型新設分割を行う場合も、事業上の合理性(経営の効率化、リスク分散、後継者への権限移譲のしやすさなど)をきちんと説明できる形で進めることが重要です。
4.その他の実務上の留意点
会社分割の実行には、取締役会決議、分割契約の締結、労働者への通知、株主総会の特別決議、債権者保護手続など、法律で定められた一連の手続きが必要で、効力発生までに一定の期間がかかります。また、分割会社が持っていた欠損金は原則として承継会社に引き継ぐことができません。登録免許税や、不動産が含まれる場合の不動産取得税など、実行に伴って発生する費用も事前に把握しておく必要があります。
まとめ
分社型新設分割は、高収益事業を切り離すことで類似業種比準価額の「利益」要素を縮小させつつ、承継会社株式の純資産価額評価でも含み益控除の効果を活かせる、事業承継における株価対策のひとつです。ただし、適格要件の充足、評価方式の切り替わり時期、行き過ぎた節税と判断されないための事業上の合理性など、専門的な判断が必要な論点が数多くあります。会社の状況によって最適な設計は大きく異なりますので、実行を検討される際は、必ず専門家に相談しながら、慎重にシミュレーションを行うことをおすすめします。
