医療法人、とりわけ「出資持分あり」の経過措置医療法人は、経営者の高齢化とともに相続税・持分払い戻し請求のリスクという重大な課題に直面しています。ここでは、持分の評価方法、「持分なし」への移行に伴う税務、そして移行を後押しする認定医療法人制度について、図表を交えて解説します。
「持分あり」医療法人が抱えるリスクと評価方法
「持分」とは、定款の定めに従い、出資額に応じて払い戻し、又は残余財産の分配を受ける権利を指します。出資金1,000万円が時価で数十億円の評価となる事例もあり、高額な相続税が課されるリスクがあります。また、出資社員の退社に伴う「時価純資産」による払い戻し請求は、法人のキャッシュフローを急激に悪化させ、経営破綻を招くおそれがあります。
出資の評価は、原則として「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を組み合わせて行われます。一般の株式会社と異なり、配当還元方式の適用はなく、また各社員の議決権が1個ずつで平等であるため、議決権割合による20%評価減も適用されません。なお、近年は類似業種比準価額方式による評価額が純資産価額に比べて著しく低くなる傾向があり、会計検査院からも評価制度のあり方について検討が求められています。
| 評価方式 | 内容 | 特有の制限 |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額方式 | 「その他の産業」の株価をベースに、法人の利益金額と純資産価額を用いて算定 | 配当還元方式の適用なし |
| 純資産価額方式 | 法人の純資産額をもとに評価 | 議決権割合による20%評価減の適用なし(議決権は1人1個で平等) |
「持分なし」への移行と税務対策
持分リスクを根本的に解消するには、「持分なし」医療法人への移行が有効な選択肢となります。ただし、持分を放棄して「持分なし」へ移行する場合、同族経営による私物化の疑いがある場合や、特定の個人に特別の利益を与える場合に該当すると、医療法人に対して贈与税(相続税法66条4項、いわゆる「みなし贈与」)が課される可能性があります。
運営組織が適正であり、次の要件を満たす場合は、例外的に贈与税が非課税となります。
- 理事6名以上、監事2名以上
- 親族等の役員が3分の1以下
- 社会保険診療報酬等に係る収入金額が全収入の80%超
- 役員報酬が不当に高額でないこと
- 解散時の残余財産が国・地方公共団体等に帰属すること
認定医療法人制度の活用
令和11年12月31日までの時限措置として、持分なしへの移行を円滑にする「認定医療法人制度」があります。厚生労働大臣の認定を受けるには、法人の運営が適正であることが求められます。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 移行期間中の納税猶予 | 出資者が持分を放棄するまで、相続税・贈与税の納税が猶予される |
| 移行完了時の免除 | 認定期間内に持分を放棄すれば、猶予されていた税額は免除される |
| 贈与税の非課税 | 法人に対する「みなし贈与」課税(相続税法66条4項)が適用されない |
| 遊休財産額の制限 | 遊休財産額が、1年間の事業費用の額を超えないこと |
| 自費患者への請求 | 社会保険診療報酬と同一の基準により計算されていること(訪日外国人診療については一定の緩和措置あり) |
| 法令遵守 | 帳簿書類の隠蔽や仮装がないこと |
移行によって変わる「小規模宅地等の特例」
持分なしへの移行は、持分という相続財産そのものを消滅させる効果がある一方で、理事長個人が所有する土地の評価に思わぬ影響を及ぼすことがあります。見落とされやすいのが、小規模宅地等の特例における適用区分の変化です。
小規模宅地等の特例のうち「特定同族会社事業用宅地等」は、被相続人とその親族などが法人の株式または出資の総額の50%超を保有していることを要件としています。持分あり医療法人であれば、理事長個人が所有し法人へ相当の対価で貸し付けている病院・診療所の敷地について、400㎡まで80%の評価減を受けられる可能性があります。
ところが、持分なし医療法人には出資持分そのものが存在しないため、この保有割合の要件を満たしようがなく、区分の対象から外れてしまいます。移行後に検討できるのは、相当の対価を得て継続的に貸し付けている場合の「貸付事業用宅地等」であり、200㎡まで50%の評価減にとどまります。
| 宅地の評価減 | 持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 |
|---|---|---|
| 該当する区分 | 特定同族会社事業用宅地等 | 貸付事業用宅地等(要件を満たす場合) |
| 限度面積 | 400㎡ | 200㎡ |
| 減額割合 | 80% | 50% |
持分の評価がなくなることによる減少額と、宅地の評価減が縮小することによる増加額は、法人の資産規模や土地の評価額によって大小が入れ替わります。土地・建物を理事長個人が所有しているケースでは影響が大きくなりますので、移行の可否は持分だけを見て決めるのではなく、法人と個人の財産全体を通した試算にもとづいて慎重に判断することが大切です。
「持分あり」医療法人は、将来の相続発生に備え、現時点での持分評価額を把握したうえで、認定医療法人制度の活用や法人格の移行を早期に検討することが重要です。
