お電話でのご相談・お問い合わせ

電話アイコン03-3426-5485

受付時間 9:00-17:00(土日祝休)

無料相談のご予約 お問い合わせフォームへ

相続税 遺言書

配偶者居住権|法律のしくみと相続税評価、遺言での設定方法

自宅はあるけれど、預貯金はそれほど多くない。このご家庭で配偶者が自宅を相続すると、取り分のほとんどが自宅で埋まってしまい、暮らしていくためのお金が残らないことがあります。この問題に対応するために相続法の改正で設けられたのが配偶者居住権です。2020年4月1日以後に開始した相続から使えるようになりました。

配偶者居住権は、民法上の権利でありながら相続税の課税対象にもなり、小規模宅地等の特例や二次相続の見通しにまで影響します。法律面と税務面の両方を押さえておかないと、せっかく設定しても思ったような結果にならないことがあります。このページでは、制度のしくみと相続税の評価、そして遺言書を作るときの注意点までを通してご説明します。

配偶者居住権とは

配偶者居住権は、自宅の価値を「住み続ける権利」と「所有権」の二つに分けるしくみです。配偶者が「住み続ける権利」を取得し、子などの他の相続人が「所有権」を取得します。所有権には配偶者が住んでいるという制約が付くため、その分だけ評価額が下がります。

たとえば自宅が4,000万円、預貯金が4,000万円、相続人が配偶者と子1人というご家庭で考えます。法定相続分どおりに分けるなら配偶者の取り分は4,000万円です。自宅をそのまま相続すると預貯金は1円も受け取れません。ここで配偶者居住権を1,900万円と評価できれば、配偶者は住む権利に加えて預貯金を2,100万円受け取れます。住まいと生活資金の両方を確保できる、というのがこの制度の狙いです。

成立するための3つの要件

民法第1028条は、次の三つがそろったときに配偶者居住権が成立すると定めています。

要件内容
法律上の配偶者であること婚姻届を出している配偶者に限られます。内縁・事実婚の方は対象になりません。
被相続人の建物であったこと相続開始の時に被相続人が所有していた建物であることが必要です。被相続人と配偶者以外の人との共有になっていた建物は対象外です。
相続開始の時に住んでいたこと相続開始の時点で、配偶者がその建物に居住していたことが必要です。住民票ではなく実際の居住の実態で判断されます。

建物の一部だけに住んでいた場合でも、配偶者居住権の効力は建物全体に及びます。店舗兼住宅のように一部を事業に使っていた建物でも、居住部分があれば設定の余地があります。

取得する方法

配偶者居住権は自動的には発生しません。次のいずれかの方法で設定する必要があります。

方法内容
遺産分割相続人全員の協議で配偶者が取得するものと決める方法です。協議がまとまらないときは家庭裁判所の審判で定められることもあります。
遺贈被相続人が遺言で配偶者に遺贈する方法です。生前に決めておけるため、もっとも確実な方法といえます。
死因贈与被相続人と配偶者との間で、死亡を条件とする贈与契約を結んでおく方法です。遺贈の規定が準用されます。

遺言で設定するときは「遺贈する」と書く

ここが実務でもっとも間違いの多いところです。遺言書で配偶者居住権を設定するときは、「配偶者居住権を遺贈する」と書かなければなりません。財産を特定の相続人に承継させるときによく使われる「相続させる」という書き方では、配偶者居住権を設定できないと考えられています。

理由は、配偶者が受け取るかどうかを選べるようにするためです。「相続させる」という書き方(特定財産承継遺言)では、配偶者がその部分だけを断ることができず、断るには相続放棄をするほかなくなってしまいます。遺贈であれば、配偶者居住権だけを放棄して、自宅をそのまま相続する、売却して住み替える、といった選択ができます。

自筆で書かれた遺言書で、この一語の違いのために配偶者居住権が成立しなかった、という例は珍しくありません。遺言書で設定するなら、公正証書遺言にして文言を確認しておくことをおすすめします。

存続期間と登記

原則は配偶者が亡くなるまで

存続期間は、何も定めなければ配偶者が亡くなるまで(終身)です。遺言や遺産分割で「10年間」のように期間を定めることもできますが、いったん定めた期間は後から延長できません。短く設定すると、期間満了後の住まいをあらためて考えなければならなくなります。期間を区切るかどうかは慎重に判断する必要があります。

登記をしないと第三者に主張できない

配偶者居住権は登記ができます。そして、登記をしておかないと、第三者には権利を主張できません。建物の所有者になった子が自宅を第三者に売ってしまった場合、登記がなければ配偶者は新しい所有者から明渡しを求められる可能性があります。設定したら速やかに登記をしておくことが大切です。

項目内容
登記の対象建物のみ。土地には登記できません。
申請する人配偶者(権利者)と建物の所有者(義務者)の共同申請です。配偶者だけでは申請できません。
登記の順序先に建物の相続登記を済ませてから、配偶者居住権の設定登記を行います。
登録免許税建物の固定資産税評価額の1,000分の2(0.2%)です。

登記は所有者側の義務でもあります。所有者が協力しないときは、配偶者から登記手続を請求することができます。

配偶者ができること・できないこと

配偶者居住権は、無償で住み続けられる強い権利ですが、所有権とは違う制約があります。

場面取扱い
住み続ける無償で住み続けられます。家賃を払う必要はありません。
第三者に売る・譲るできません。配偶者居住権は譲渡が禁止されています。
人に貸す・増改築する建物の所有者の承諾が必要です。承諾なく行うと、是正を求められ、従わないときは権利を消滅させられることがあります。
建物の使い方従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用する義務があります。
通常の必要費配偶者の負担です。固定資産税や日常の修繕費がこれにあたります。
大規模な修繕・改良所有者の負担とされます。配偶者が立て替えたときは、所有者に償還を求められます。

固定資産税の納税通知書は建物の所有者に届きます。実務では所有者がいったん納付し、配偶者に求償するという整理になります。誰がいくら負担するのかを、設定の段階で家族の間で確認しておくと後々もめにくくなります。

配偶者短期居住権との違い

名前の似た権利に配偶者短期居住権があります。こちらは相続開始と同時に自動的に発生する権利で、遺産分割がまとまるまでの間、配偶者が住む場所を失わないようにするためのものです。

 配偶者居住権配偶者短期居住権
発生のしかた遺産分割・遺贈・死因贈与で設定する要件を満たせば自動的に発生する
期間原則として終身遺産分割で建物の帰属が確定した日と、相続開始から6か月を経過する日の、いずれか遅い日まで
及ぶ範囲建物全体無償で使用していた部分
登記できるできない
相続税課税対象になる課税対象にならない

配偶者短期居住権は相続税の課税対象にならず、評価も不要です。一方の配偶者居住権は、次に述べるとおり相続税の計算に組み込まれます。

相続税での評価

配偶者居住権を設定すると、自宅は4つの価額に分かれます。評価の方法は相続税法第23条の2に定められています。

 配偶者が取得所有者が取得
建物配偶者居住権配偶者居住権が設定された建物の所有権
土地敷地利用権配偶者居住権が設定された土地の所有権

4つの合計は、配偶者居住権を設定しなかった場合の自宅の評価額と一致します。評価額が全体として減るわけではなく、配偶者と子の間での配分が変わるというしくみです。

建物(配偶者居住権)の算式

建物の相続税評価額から、配偶者居住権が消滅した時点で建物に残っているはずの価値を現在価値に割り引いて差し引きます。

配偶者居住権=建物の相続税評価額-建物の相続税評価額×(耐用年数-経過年数-存続年数)÷(耐用年数-経過年数)×存続年数に応じた複利現価率

(耐用年数-経過年数-存続年数)が0以下になるときは、建物の相続税評価額がそのまま配偶者居住権の価額になります。築年数が古い建物では、建物部分の価値がほぼすべて配偶者側に寄ることになります。

土地(敷地利用権)の算式

敷地利用権=土地の相続税評価額-土地の相続税評価額×存続年数に応じた複利現価率

土地は建物と違って古くならないため、耐用年数や経過年数は使いません。割り引く分だけが所有権側に残ります。

計算に使う3つの数値

耐用年数は、住宅用の法定耐用年数を1.5倍した年数を使います。事業用より長めに設定されています。

建物の構造耐用年数
木造・合成樹脂造33年
木骨モルタル造30年
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造71年
れんが造・石造・ブロック造57年
金属造(骨格材の肉厚4mm超)51年
金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下)41年
金属造(骨格材の肉厚3mm以下)29年

存続年数は、終身の場合は配偶者の平均余命を使います。完全生命表の平均余命によることとされており、6か月以上の端数は1年に切り上げ、6か月未満は切り捨てます。期間を定めた場合はその年数(平均余命を超えるときは平均余命)です。

複利現価率は、民法の法定利率で存続年数に応じて割り引く率です。法定利率は3年ごとに見直されますが、2020年4月の変動制の導入以降は年3%で据え置かれており、2029年3月まではこの3%を使うことになります。

計算例

木造・築10年の自宅、建物の相続税評価額1,000万円、土地の相続税評価額3,000万円、配偶者は75歳で平均余命が16年だったとします。耐用年数は33年、経過年数10年、存続年数16年、複利現価率は3%・16年で0.623です。

区分計算評価額
配偶者居住権1,000万円-1,000万円×(33-10-16)÷(33-10)×0.623約810万円
建物の所有権1,000万円-810万円約190万円
敷地利用権3,000万円-3,000万円×0.6231,131万円
土地の所有権3,000万円-1,131万円1,869万円
合計-4,000万円

この例では、配偶者が取得する自宅関係の財産は約1,941万円、子が取得するのは約2,059万円となります。自宅をそのまま配偶者が相続すると4,000万円すべてが配偶者の取り分を占めてしまうところ、半分ほどに抑えられたことになります。

配偶者が若いほど存続年数が長くなり、配偶者居住権の評価額は大きくなります。逆に高齢であるほど小さくなります。同じ自宅でも、配偶者の年齢によって結果がかなり変わる点にご注意ください。

小規模宅地等の特例との関係

自宅の敷地は、要件を満たせば330㎡まで評価額を80%減額できます(特定居住用宅地等)。配偶者居住権を設定しても、この特例は使えます。敷地利用権と土地の所有権のそれぞれについて、取得した人が要件を満たすかどうかで判定します。

面積は、土地全体の面積に、それぞれの価額が合計額に占める割合を掛けて按分します。先ほどの例で敷地が300㎡だとすると、敷地利用権に対応する面積は300㎡×1,131万円÷3,000万円=113.1㎡、土地の所有権に対応する面積は186.9㎡です。合計は300㎡で330㎡の枠に収まりますから、両方に特例を適用できます。

配偶者が取得する部分には居住継続や保有継続の要件がありません。一方、土地の所有権を取得する子については、同居していたか、いわゆる家なき子にあたるかなど、通常どおりの要件を満たす必要があります。同居していない子が所有権を取得する場合、その部分には特例が使えないことが多く、ここで想定より税額が増えることがあります。設定前の試算が欠かせません。

設定した後の税務

配偶者が亡くなったとき(二次相続)

配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅し、建物の所有者は制約のない完全な所有権を回復します。このとき、消滅による価値の回復に相続税はかかりません。配偶者居住権は配偶者の相続財産にもなりません。

一次相続で自宅をそのまま配偶者が相続すると、二次相続ではその自宅が丸ごと課税対象になります。配偶者居住権を使えば、自宅のうち配偶者側に寄った部分は二次相続の課税を受けずに済みます。一次相続と二次相続を通算した税負担を抑えられる場合があるのは、この性質によるものです。ただし配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分までは相続税がかからない制度)との兼ね合いで結論は変わりますので、両方の相続を通した試算をしたうえで判断する必要があります。

途中で放棄・合意解除したとき

配偶者が存命のうちに配偶者居住権を放棄したり、所有者との合意で解除したりすると、建物の所有者はその分だけ利益を受けます。対価のやり取りがなければ、その利益に贈与税が課税されます。施設に入ることになったので権利を手放す、といった場面は実際に起こり得ます。「使わなくなったら放棄すればよい」と安易に考えないほうがよい理由がここにあります。

なお、存続期間の満了による消滅や、配偶者の死亡による消滅では課税されません。課税されるのは、合意解除や放棄など、配偶者の意思によって期限前に消滅させた場合です。

対価を受け取って消滅させたとき・自宅を売るとき

所有者から対価を受け取って配偶者居住権を消滅させた場合は、配偶者に譲渡所得が生じます。このときの取得費は、設定時の価額から、設定から消滅までの期間に応じた減価相当額を差し引いて計算します。2020年度の税制改正でこの計算方法が整備されました。

配偶者居住権が付いたまま所有者が建物と土地を売る場合も、所有者側の取得費を同じ考え方で調整します。対価が適正な額より低いときは、その差額が贈与とみなされることもあります。自宅を売って住み替える前提があるご家庭では、配偶者居住権の設定がかえって手続を複雑にすることがあります。

向いているご家庭・向いていないご家庭

向いているケース慎重に検討したいケース
財産に占める自宅の割合が大きく、配偶者の生活資金が足りなくなりそう預貯金が十分にあり、配偶者が自宅を相続しても生活に支障がない
子が前妻・前夫との間の子であるなど、配偶者の居住を確実にしておきたい近いうちに自宅を売って住み替える、施設に入る可能性が高い
一次・二次を通した相続税の負担を抑えたい建物が古く、配偶者も高齢で、評価を分ける効果が小さい
配偶者と所有者になる子の関係が良好で、修繕や登記に協力が得られる所有者になる子が同居しておらず、土地の所有権部分に小規模宅地等の特例が使えない

遺言書を作るときのポイント

配偶者居住権は、遺言で設定しておくのがもっとも確実です。遺産分割にゆだねると、協議がまとまらなければ設定できません。遺言書を作るときは、次の点をご確認ください。

確認する点内容
文言「配偶者居住権を遺贈する」と書く。「相続させる」では設定できません。
建物の特定登記事項証明書のとおりに所在・家屋番号・種類・構造・床面積を書く。
存続期間終身とするのか期間を定めるのかを書く。定めないときは終身になります。
建物と土地の帰属所有権を誰に相続させるのかもあわせて定める。ここが空いていると分割協議が必要になります。
遺言執行者登記手続を進めやすくするため、遺言執行者を指定しておく。
遺留分配偶者居住権の価額も遺留分の計算に含まれます。他の相続人の遺留分を侵害しないか確認する。
予備的な定め配偶者が先に亡くなった場合にどうするかも書いておく。

公正証書遺言にしておけば、文言の不備で設定できなかったという事態は避けられます。遺言書の作成にあわせて、配偶者居住権を設定した場合としない場合の相続税を試算しておくと、ご家族への説明もしやすくなります。

ご注意

このページは制度の概要をご説明したものです。実際の評価では、建物の構造や経過年数、配偶者の年齢、土地の形状による補正、共有関係の有無などによって結果が変わります。小規模宅地等の特例の適用可否や、どの宅地に優先して適用するかの判断も、ご家庭ごとに異なります。配偶者居住権を設定するかどうかは、一次相続と二次相続の両方を試算したうえで、法律面の手当てとあわせてご検討ください。

当事務所では、相続税の試算と遺言書の文案の検討を一緒にお引き受けしています。登記が必要な場面では提携の司法書士とも連携しますので、設定から登記までを通してご相談いただけます。

-相続税, 遺言書