NPO法人の収入は、会費・寄附金・助成金といった対価性のないものと、受託事業や物販などの事業収入が混ざっています。事業収入が増えて消費税の課税事業者になると、会費や助成金は特定収入として仕入税額控除を減らす調整の対象になります。このページでは制度の考え方を整理し、金額を入れるとその場で調整計算ができるシートを用意しました。
特定収入とは
消費税は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて納めるしくみです。ところが学校法人・社会福祉法人・NPO法人・宗教法人などの法人(消費税法別表第三に掲げる法人)は、補助金・寄附金・会費といった対価性のない収入で経費をまかなっている部分があります。この部分まで仕入税額控除を認めると、消費税を負担していないのに控除だけ受けることになってしまいます。
そこで消費税法60条4項・消費税法施行令75条は、対価性のない収入を特定収入と呼び、特定収入でまかなった課税仕入れに対応する税額を、仕入控除税額から差し引くこととしています。これが「特定収入に係る仕入控除税額の調整」です。
特定収入に該当しないものも定められています。借入金・出資金・預金利子・保険金・損害賠償金のほか、法令や交付要綱などで人件費や借入金返済など課税仕入れ以外の用途にのみ使うこととされている補助金等は特定収入から除かれます(施行令75条1項)。交付要綱や補助金交付決定通知書の記載が、そのまま計算結果を左右します。
調整が必要になるのは「特定収入割合が5%を超える」とき
まず次の割合を計算します。
特定収入割合 = 特定収入の合計 ÷(資産の譲渡等の対価の額の合計 + 特定収入の合計)
この割合が5%以下であれば調整は不要で、通常どおりの仕入控除税額で申告できます。5%を超えると調整が必要になります。なお簡易課税制度を適用している課税期間は、この調整は行いません。免税事業者であればそもそも申告自体が不要です。
調整が必要な場合は、さらに調整割合 = 使途不特定の特定収入 ÷(資産の譲渡等の対価の額の合計 + 使途不特定の特定収入)を計算し、使途が特定されている分と特定されていない分に分けて控除額を減らします。
令和5年10月以後は「取戻し」の計算も
インボイス制度の開始にともない、令和5年10月1日以後に開始する課税期間では、特定収入でまかなった課税仕入れのうち適格請求書等の保存がないもの(控除対象外仕入れ)について、減らしすぎた控除額を戻す計算が加わりました(施行令75条8項)。その特定収入でまかなった課税仕入れに占める控除対象外仕入れの割合が5%を超える場合が対象です。
NPO法人でよくある収入の区分
実際の判断は会則や交付要綱、契約内容によりますが、区分の目安は次のとおりです。
| 収入の例 | 消費税の取扱い | シートでの入力先 |
|---|---|---|
| 正会員・賛助会員の会費(対価性なし) | 特定収入(使途が特定されていなければ使途不特定) | 4 使途不特定 |
| 会報の購読や役務の提供の対価としての会費 | 対価性があり課税売上 | 2 課税売上高 |
| 寄附金・クラウドファンディング(リターンなし) | 特定収入(使途不特定) | 4 使途不特定 |
| 助成金(備品購入・事業費に充当) | 特定収入(課税仕入れ等に使途特定) | 4 課税仕入れ等に使途特定 |
| 人件費に限定された助成金・補助金 | 交付要綱で人件費にのみ使うこととされていれば特定収入に該当しない | 4 特定収入に該当しない |
| 行政からの受託事業収入 | 業務委託契約に基づく対価であり課税売上 | 2 課税売上高 |
| 物販・イベント参加費・講師派遣料 | 対価性があり課税売上 | 2 課税売上高 |
| 借入金・受取利息 | 特定収入に該当しない | 4 特定収入に該当しない |
判断の分かれ目は対価性があるかどうかと、その助成金は何に使うことになっているかです。会費については、名称ではなく実際に何を提供しているかで判定します。
NPO法人でつまずきやすい点
- 受託事業が増えて課税事業者になった年…前々年度の課税売上高で判定するため、受託が伸びた2年後に申告義務が生じます。会費・寄附が多い法人ほど調整の影響が大きくなります。
- 会費と寄附金と事業収入の線引き…同じ「会費」でも、対価性の有無で入力先が変わります。会則と実際の提供内容を突き合わせて確認します。
- 助成金は事業ごとに使途が違う…複数の助成金を受けている場合、一本にまとめず助成金ごとに行を分けて入力します。
- 簡易課税や2割特例を選んでいる場合…特定収入の調整は行いません。どの方法が有利かは、助成金の規模と課税仕入れの内容によって変わります。
- インボイスのない支払い…助成金でまかなった支払いに適格請求書がないと、取戻しの計算が必要になる場合があります。
特定収入に係る仕入控除税額の調整計算シート
金額を入力すると、特定収入割合・調整割合・控除対象仕入税額がその場で計算されます。まず「記載例を読み込む」をクリックすると、入力のイメージがつかめます。簡易課税を適用している場合は「簡易課税で計算」をクリックすると、事業区分を選んでみなし仕入率で計算する画面に切り替わります。
特定収入に係る仕入控除税額の調整計算 令和8年版
消費税法60条4項・施行令75条 公益法人・社会福祉法人・NPO法人等(一般課税)|標準税率7.8/110・軽減税率6.24/108(国税部分)
1基本情報
簡簡易課税の計算 事業区分とみなし仕入率
| 事業区分 | 課税売上高 標準10%(税抜) | 課税売上高 軽減8%(税抜) |
|---|---|---|
| 第1種(90%) | ||
| 第2種(80%) | ||
| 第3種(70%) | ||
| 第4種(60%) | ||
| 第5種(50%) | ||
| 第6種(40%) |
簡易課税を適用する課税期間は、特定収入に係る仕入控除税額の調整を行いません。控除対象仕入税額は、課税標準額に対する消費税額にみなし仕入率を乗じて計算します。
2資産の譲渡等の対価の額 税抜・返還等控除後
会費・寄附金・補助金など対価性のない収入はここに入れず、3の特定収入に入力します。
3課税仕入れ等 税込支払対価(インボイス等保存分)
| 用途区分 | 標準税率10% | 軽減税率8% |
|---|---|---|
| 課税売上げにのみ要するもの | ||
| 非課税売上げにのみ要するもの | ||
| 共通して要するもの |
税額は支払対価×7.8/110、×6.24/108で算出します(積上げ計算の場合は差額を「その他の加減算税額」で調整)。
4特定収入等の明細
| 収入の名称 | 金額 | 区分(使途) | 用途区分 個別対応方式用 |
|---|
「特定収入に該当しない」…借入金・出資金・預金利子・保険金・損害賠償金のほか、法令や交付要綱等で人件費・借入金返済など課税仕入れ以外にのみ使うこととされている補助金等(施行令75条1項)。
5控除対象外仕入れの取戻し 令和5年10月1日以後の課税期間(施行令75条8項)
使途特定の特定収入で賄った課税仕入れのうち、適格請求書のない仕入れ(控除対象外仕入れ)の税込支払対価を入力します。
| 用途区分 | 標準税率10% | 軽減税率8% |
|---|---|---|
| 課税売上げにのみ要するもの | ||
| 共通して要するもの |
控除対象外仕入れ割合(控除対象外仕入れ÷その特定収入で賄った課税仕入れ)が5%を超える特定収入が取戻し対象です。判定用の合計が空欄の場合は取戻しを適用します。
6計算明細
計算方法と注意点
- 特定収入割合 = 特定収入の合計 ÷(資産の譲渡等の対価の額の合計 + 特定収入の合計)。5%以下なら調整不要で、通常の仕入控除税額のまま申告します。
- 調整割合 = 使途不特定の特定収入 ÷(資産の譲渡等の対価の額の合計 + 使途不特定の特定収入)。
- 全額控除(課税売上高5億円以下かつ課税売上割合95%以上):使途特定分×7.8/110 +(課税仕入れ等の税額 − 使途特定分の税額)×調整割合。
- 個別対応方式:課税売上対応の使途特定分×7.8/110 + 共通対応の使途特定分×7.8/110×課税売上割合 +(控除税額 − 前2項)×調整割合。
- 一括比例配分方式:使途特定分×7.8/110×課税売上割合 +(控除税額 − 前項)×調整割合。
- 取戻し:控除対象外仕入れ×7.8/110(共通対応・一括比例は×課税売上割合)×(1 − 調整割合)を、特定収入に係る課税仕入れ等の税額から控除します。
- 調整後の仕入控除税額がマイナスになる場合は、その金額を課税標準額に対する消費税額に加算します。
- 課税期間が1年未満の場合、課税売上高5億円の判定は年換算してください(このシートは入力額で判定)。
- 通算調整割合による調整(施行令75条5項)、貸倒れに係る税額はこのシートの対象外です。
- 端数処理:税額は円未満切捨、差引税額は百円未満切捨で表示しています。申告書作成時は国税庁の計算表(計算表1〜5)で確認してください。
- このシートの使用による、いかなる損害も補償いたしかねます。
計算シートの使い方
- 1 基本情報…法人名・課税期間を入れます。中間納付税額は申告書の最後で差し引かれるため、あわせて入力しておくと納付額の見込みまで出ます。簡易課税を適用している場合は、上の「簡易課税で計算」をクリックするか、この欄のチェックを入れてください。事業区分を選ぶ欄が現れ、みなし仕入率による計算に切り替わります(2種類以上の事業がある場合は、区分ごとの課税売上高を入力すると加重平均で計算します)。
- 2 資産の譲渡等の対価の額…税抜・返還等控除後の金額です。会費・寄附金・補助金など対価性のない収入はここには入れません。非課税売上もこの欄に入れます。
- 3 課税仕入れ等…税込の支払対価を、課税売上げにのみ要するもの・非課税売上げにのみ要するもの・共通して要するものに分けて入力します。積上げ計算をしている場合は、差額を「その他の加減算税額」で調整してください。
- 4 特定収入等の明細…収入ごとに「使途不特定」「課税仕入れ等に使途特定」「特定収入に該当しない」を選びます。ここが計算の中心で、交付要綱の記載に沿って判断します。
- 5 控除対象外仕入れの取戻し…特定収入でまかなった課税仕入れのうち、インボイスの保存がないものを入力します。
- 6 計算明細…A〜Hの計算過程が根拠つきで表示されます。申告書の付表や国税庁の計算表と突き合わせる際に使えます。
入力内容はご覧になっているブラウザ内にのみ保存され、当事務所に送信されることはありません。
ご注意
このシートは、一般課税の場合の特定収入に係る調整計算と、簡易課税の場合のみなし仕入率による計算の概算を示すものです。簡易課税では、2種類以上の事業がある場合の75%特例(特定一事業・特定二事業)には対応していません。通算調整割合による調整(施行令75条5項)や貸倒れに係る税額には対応していません。課税期間が1年に満たない場合の5億円判定の年換算も行っていません。実際の申告にあたっては、国税庁の計算表(計算表1〜5)で計算し、税務署または税理士にご確認ください。本シートのご利用によって生じたいかなる損害についても、当事務所は責任を負いかねます。
NPO法人の消費税申告を、会費・助成金の区分から確認します
特定収入の区分は、会則や交付要綱の書きぶりひとつで納税額が変わります。公認会計士・税理士が、活動計算書と助成金の資料を確認したうえで判定し、申告書の作成までお手伝いします。顧問契約をご検討中の方のご相談も承ります。
